公開: 2023年3月20日
更新: 2023年5月17日
米国議会で弾劾審議に臨んだ、当時の大統領、クリントン氏は、元インターン生だった女性との不倫を認めました。それは、「私は、その人と不適切な関係を持ちました」と言う証言でした。この表現には、私は「倫理的に正しい行為をしていた」主張することはできないが、「倫理的に罰せられるような行為はしていない」と言う意味が含まれています。大統領は、そのインターン生と、「性的な関係は持たなかった」と主張しようとしたのです。そして、性的な関係を持たなかったので、「不倫」ではなかったと主張したかったのでしょう。
これは、自分は嘘は言わないことを強調しながら、その行為を「不倫」と見なすかどうかの判定については、世論の流れに任せる論法です。それは、大統領が自分の動物的な欲求に基づいた行動を取ったが、それは法律的に言えば、必ずしも「不倫」とは言えない行動であったとする言い分です。その言い分を信用するかしないかは、世論の動向に任せると言うやり方でした。結果として、世論は、「大統領の行為は批判されるべきものでしたが、大統領は嘘を言わなかったので、罷免される必要はない」と言うものでした。
ここで、重要なことは、カントの例のように、客観的に確認できる事実については、事実のままに証言しましたが、その行為の評価に直接影響を与える、解釈に関わる部分においては、自分が有利になる情報だけを提供すると言う、裁判でよく使われる、やり方が使われた点でした。
サンデル, M.著、「これからの正義の話をしよう」、早川書房(2011)